盛岡簡易裁判所 昭和33年(ハ)40号 判決 1958年11月06日
原告 工藤サダ
被告 巻勇
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
≪省略≫
理由
原告が昭和三一年二月一〇日から法定の届出をしているものであることは当事者間に争がない。
原告は昭和三一年六月一三日被告に対し金四五、〇〇〇円を利息月五分、弁済期は同年八月二五日と定め現金をもつて貸付けたと主張するので、まずこの点について案ずるに被告の署名押印が真正に成立したことについては争いがなくそのため爾余の部分も真正に成立したと推定される甲第一号証には右主張に副う記載があり、また原告本人尋問のなかにも同じく右の主張に副う供述部分があるが、それらは後記認定事実にてらしてたやすく措信できず他に右主張事実の存在を肯認するに足る証拠はない。かえつて被告本人尋問の結果により真正に成立したと認める乙第一、二号証、成立に争いのない同第三号証及び証人工藤正八の証言並びに被告本人尋問の結果を総合すると、被告は昭和三〇年四月四日原告の夫である訴外工藤金之助より現金三〇、〇〇〇円の交付を受け同人との間に右借受金に前利息(天引)三、〇〇〇円を加えて元本債権額を金三三、〇〇〇円とし、利息は年三分、弁済期は同年七月末日とする旨の消費貸借が成立し、その後被告が弁済期を過ぎた同三一年二月一二日右訴外人に金一〇、〇〇〇円を弁済したにとどまり残余の債務を弁済しないでいたところ、同年六月一三日前示貸金債権及び利息金を対象とする準消費貸借が成立し、同時に該債権につき債権者が同訴外人から原告に代るいわゆる債権者の交替による更改があつたので、被告は原告に対し該債務の弁済に充てるため同年一二月二七日金二〇、〇〇〇円を支払つたこと(もつとも被告が原告に対し右月日に右金員を交付したことは当事者間に争がない)が認められる。
当事者が通常の消費貸借(狭義の消費貸借)の成立を主張する場合に既存債務を目的とする準消費貸借の成立を認定することが当事者の主張の範囲内に属すると解しうるか否かについては疑問の余地がないではないが、少くとも準消費貸借の成立にあたり新旧債務の同一性を当事者が否定する意思であつたことが証拠上認められるとき、或は債権者が訴訟上これを明白に否定する意思を表明したときにあつては、両者はそれぞれ債権発生原因を異にする全然別個の請求とみるべきであつて、両者間には同一性がなく、準消費貸借の成否については判断することができないと解すべきである。ところでこれを本件についてみるに、債権者である原告は本訴請求は通常の消費貸借に基く貸金の返還を求めるものであつて、準消費貸借に基く金員の返還を求める趣旨のものではないと明白に主張するのであるから、当裁判所は後者に基く返還請求につき判断することは許されない。しかも前示認定のように、本訴請求にかかる金員は債権者の交替による更改に基く債権であると認められないことはないが、原告は明らかにこれを否定し、該債権と本件請求にかかる債権とは別個のものであると主張するため、両者間にも請求の同一性が認められないので、同じくその適否を判断することができない。
そうすると、前示認定のごとく原告の主張するような通常の消費貸借の成立が認められない以上、その余の点につき判断するまでもなく、原告の本訴請求は理由がないのでこれを失当として棄却し、訴訟費用は被告の申立に従い敗訴した原告に負担させることとし、主文のとおり判決する。
(裁判官 岡垣学)